第17回 アバイアのACD その1 ― スキルベースルーティングのおさらい
みなさまこんには。今回から私自身もとても楽しみなテーマの連載を開始しましょう。 15年ほど前に、新入社員だった私は、以前いた会社で、これから会社の柱となると期待されたコールセンターソリューションの立ち上げに参画しました。そのとき出会ったのが当時ベル研究所が作ったコールセンター機能を持った電話交換機(PBX)のDefinity(ディフィニティー)とCMS(コールマネージメントシステム)でした。Definityは単なる交換機でなく、コールセンターを実現するための機能が詰まっており、CMSもさまざまなレポートや管理機能を提供していました。現在のアバイアのAvaya Aura Communication ManagerやCMSは、プラットフォームこそ違いますが、そのときの機能を受け継いでいます。これらが15年以上前に作られていたと思うと、もうすごいと驚嘆するしかないです。どれだけ頭の良い人達が作っていたのだろうかと、思いを馳せてしまいます。
さて、今回はそのときからあった機能であるスキルベースルーティングについて触れたいと思います。アバイアのPBXには、コールセンターを実現するためのソフトウェアが入っています。オプションはいくつかあるのですが、ほとんどのお客様がスキルベースルーティングを使っています。
それでは、はじめからDeepに行かずに基本的なことから説明していきましょう。新しくアバイアをお客様になっていただける方には基礎的な知識の理解として、すでにお使いのお客様にはもっと活用して頂くための手助けとなれば幸いです。前置きが長くなってしまいましたが、本題に入りましょう。
スキルベースルーティングの基本コンセプト
スキルベースルーティング(Skill Based Routing)を使っているセンターはたくさんあると思いますが、なんとなく使っているケースもあると思います。覚えていて欲しいのは、スキルベースルーティングの根底にある「顧客のニーズとエージェントのスキルをマッチングしてルーティング(呼を分配)する」というマッチングコンセプトです。ここがぶれると、歪んだスキル設計、コールフロー設計になってしまいます。迷ったときは、このコンセプトに戻って考えるとよいでしょう。
上図を見ればおわかりかと思いますが、左側にお客様が電話を架けてくる窓口、右側にエージェントが持っているスキルがあります。上のエージェントは、「注文」スキルしか持っていないので、「注文」の電話しか振られません。一方、下のエージェントは、「注文」、「問合せ」のスキルを持っているので、「注文」、「問合せ」の両方の電話が振られます。これが、エージェントのスキルによって呼を振るというスキルベースルーティングです。
顧客のニーズとエージェントのスキルをマッチングさせることによって、どんなメリットがあるでしょうか? マッチングしていない場合を考えると、わかりやすいかもしれません。
マッチングしていない場合:
- 通話時間が長くなる
- 保留回数・時間が増える
- 転送やエスカレーションが増える
- 顧客に悪い印象を与えてしまう
- 内容のわからない電話はエージェントにストレスになる
- 待ち呼が増える、放棄率が上がる、サービスレベルが下がる
- 上記に対応するため余計な仕事が増えてしまう
そうですね。顧客のニーズとエージェントのスキルがマッチングしていれば、上記のようなことを回避できるようになります。また、そればかりでなく、一部の業務を覚えれば受電を担当できるため教育期間を短縮することもできると思います。そして、採用もしやすくなるはずです。トレーニングとスキルの割り当てをリンクさせて、効率的にスキル管理を行えるようになります。また、マルチスキル化を行うことで、エージェントの受け皿(エージェントプール)を大きくすることができるため、待ち呼の削減やサービスレベル向上にも貢献します。スキルの付け替えは簡単に行えるので、人数を増やしたり、応援を頼んだりフレキシブルな管理を行うことができます。
しかしながら、きちっとスキル設計をしないと、かえって効率が悪くなってしまいます。たくさんあり過ぎるスキルや歪んだスキル設計は、シフト作成、スタッフィング、スキル管理などを複雑にし、手間と労力がかかるようになってしまう可能性があります。
複雑にするのは簡単です。如何にシンプルにするかがポイントとなるでしょう。
ヒント:ACDとは
ACDとはAutomatic Call Distributionの略で、架かって来た電話を均等に分配する機能を含めコールセンター機能の総称として用いられています。PBXが持つコールセンター用の機能のことを指す以外にも、コールセンター用のPBXそのものをACDと読んだりするケースもあります。 |
スキルルーティングを実現するには
スキルルーティングを行うには、電話の入り口を顧客のニーズで分ける必要があります。既に顧客ニーズによって電話番号が分かれている場合は、それがスキルを検討する材料になります。もし、1つの電話番号で複数のコールタイプが混在している場合は、それができないので、電話番号を分割するか、音声応答装置(IVR)で要件によって振り分けを行い顧客のニーズを把握するのも1つ方法です。アバイアのPBXには、コールプロンプティングという機能があり、後述するベクターで簡易IVRとして振り分けを行うことができます。
また、データベースルーティング(「第12回CTIのルーティング」)を使う方法もあります。例えば、架かって来た電話の発信者番号が顧客データベースに登録がない場合、新規のお客様からの電話だと想定できるため、新規・問合せのスキルへ振ることができます。ゴールドのお客様だと判断できれば、ゴールド担当へ振るなど可能となるでしょう。もし、入り口で割り振るのが難しい場合、センター内部での転送を想定し、しっかり作る必要があります。具体的には、転送用のVDN(スキル)を準備しておくのがよい方法かと思います。
スキルベースルーティングを実現する構成
それでは、スキルベースルーティングを実現するためのPBXの構成要素を見て行きましょう。
上の構成要素を説明すると以下のようになります。
構成要素 | 説明 |
トランクグループ | 局線のグループです。電話公衆網から入ってきた電話は、トランクグループから入電し、コールフローの入り口であるVDNに着信します。 |
VDN (ベクターディレクトリーナンバー) |
VDNは内線番号を持っており、外線の電話番号に対して、VDNを割り当てます。その外線番号に電話をすれば、VDNに着信することになります。また、その名の通りVDNはベクターを指し示しています。複数のVDNから同じベクター(コールフロー)を使うことができます。 |
ベクター(Vector) | コールフローを定義します。架かって来た電話は、ベクターに書いてある扱いを受けます。時間外のチェックや時間内ならば、スキルへキューイングしたり、呼出し・保留音・アナウンス・他のVDNに転送したり、コールプロンプト(簡易IVR)提供したりします。 |
スキル | スキルは論理的なグループです。エージェントにスキルをアサインすると、そのスキルを持つエージェントに、PBXは自動的に呼を振るようになります。ベクターの中ではスキルへキューイング(スキルの待ち行列に並べ)する命令を書きます。 |
エージェント | 電話を受けるオペレーターです。コールセンターでは、会社の顔である大切なリソースなのでエージェントと呼んでいます。実際にはPBX内にエージェントIDを定義し、エージェントIDに対して、スキルを割り当てます。そのエージェントIDで電話機にログインをすると、PBXが認識し電話を振るようになります。 |
さて、これらの構成要素はCMSのレポートにも関連しています。1つ1つの構成要素が、CMSでレポートするポイントとなっています。
レポートのカテゴリ | 説明 |
トランクグループ | トランクグループレポート:局線のグループのレポート |
VDN | VDNレポート:入り口での統計を取ることができるため、サービス毎(着信番号)のレポートとして活用できます |
ベクター | ベクターレポート:フロー単位でのポート |
スプリット/スキル | グループのレポート |
エージェント | エージェント個人のレポート |
ヒント:「スプリット/スキル」の「スプリット」って何?
CMSを操作していると、至る所で「スプリット/スキル」という用語に遭遇します。「スプリット/スキル」の「スプリット」とは何でしょうか? |
バックアップスキル
詳細に入る前に、バックアップスキルについて触れておきましょう。
アバイアのACDでは、「マルチプルキューイング」と言って、同時に3つまでのスキルへキューイング(スキルの待ち行列に並ばせる)することができます。
メインのスキルが溢れた場合に、次に着信させるスキルをバックアップスキルと呼びます。2つ目のスキルにも空きがない場合は、同時に2つのスキルの待ち行列に並びます。そして、どちらからのスキルに空きが出来れば、そちらに着信します。
バックアップスキルがある場合のフローを図示すると以下のようになります。ここではVDNに着信した呼がまず「問合せ」スキルへキューイングし、溢れたら「バックアップ」スキルへキューイングされています。
アバイアのACDは、16段階のスキルレベルがあり、複数のエージェントが同じスキルを持っている場合でも、レベル1のエージェントから呼を振ることができます。したがって、バックアップスキルを設けなくてもよいのですが、何件バックアップしたかなどの統計を分けたい場合やバックアップの管理をしやすくする目的で使用します。
実際は、上図のフローより、下図のフローの場合にバックアップスキルを使うことが多いでしょう。これは、「問合せ」・「注文」どちらのスキルが溢れてもバックアップスキルへキューイングされています。この場合、必ず前のスキルが溢れたときだけバックアップスキルへキューイングされますし、バックアップスキルを1つ持てば、2つのスキルをカバーすることができます。
第一段階のキューイングのスキルは、メインでその業務を行うエージェントが持ち、バックアップスキルは、スーパーバイザーが緊急に応答する場合、または、他の部署から応援で電話を受ける場合のスキルとして使うことができます。
また、三段階まで同時キューイングできるので、以下のようにすることもできます。
マルチプルキューイングを使うときCMSレポートに注意事項がありますので、「第13回 コールフローとCMSレポートとの関係について」を参考になさって下さい。
お分かり頂けましたでしょうか? 次回は、続きをもう少しDeepに説明して行きたいと思います。
おわりに
最後までお付き合い頂きありがとうございます。 15年前にスキルベースルーティングの説明をするのにはとても苦労をしました。当時構築したセンターは、はじめてスキルベースを使ったセンターばかりでした。また、スキルベースルーティングを提供する側も理解が乏しいため、当時は米国のAT&Tのプロフェッショナルサービスからコンサルタントを呼んで、コールフローのデザインをしていました。私はそのコンサルタントと一緒に、数多くのセンターを構築しました。彼との出会い、そして、そのときの経験が、今このようにアバイアで働いているきっかけになったと思っています。 それでは次回もご期待下さい。
第18回
アバイアのACD その2 -(続)スキルベースルーティングのおさらい